2018年9月17日敬老の日。福井市の社会福祉法人慶秀会のル・レーヴ ほのかさんにて、施設内ラジオの実践を行いました。Wifiがない施設でしたので、思ったように電波が届かない等の問題はありましたが、なんとか実践を終えることができました。何かと閉ざされがちな空間に、施設内ラジオというイベント(公開放送)とメディア(ラジオ・デバイス)を持ち込むことで、施設内のコミュニケーションを活性化させ、また閉じこもりがちなお年寄りが少しでも他の入居者さんや職員さんとの交流を深めることができないかと、大川情報通信財団の助成をいただいて、Wifi経由のラジオ・システムとデバイスの開発とプログラムの実践・調査を行いました。

今年の春から、何度かの打ち合わせを経て、出来上がったのは、少し大きめでシンプルなボタンだけのラジオ。お年寄りも操作が簡単にできることを優先し、同時に、聞いていることの反応がわかるように、ハート型の「いいね!」ボタンを設置しました。放送波ではないので数十秒の時差が生まれますが、どれくらいボタンが押されているかは会場にも伝わります。

初めて見るシステムやデバイスというのは、年齢関係なくワクワクするものです。
最近の学生たちが情報がどういう伝送路を通ってきているのかをあまり気にしないのと反対に、お年寄りの皆さんはその仕組みが不思議で仕方ないようでした。ラジオのデザインにもいろいろとアイディアを出していただきました。

番組は、敬老の日ということで、お一人お一人の紹介のほか、職員さんの秘密を当てるクイズ、若者がお年寄りに悩み相談をする「教えて先輩!」など。実は似た実践を愛知淑徳大学時代にも行なったことがあるのですが、悩み相談はとても盛り上がります。「介護される」側がアドバイスをするという立場の逆転は、認知症を抱えている方にも刺激になるようです。ちなみに司会の藤田さん(社会福祉士)とギターの吉田さんはサルの着ぐるみを、所長は水戸黄門の衣装で登場。施設のイベントの時はこの着ぐるみが参加者の気持ちをほぐし、非日常感を高めるのにとても効果があるのだそうです。お年寄りは引いてしまわれるのではと心配しましたが、皆さんごく自然に楽しんでおられました。

「他の入所者さんのことが理解できた」「職員さんの意外な一面が見られた」「外から人が来てくれて、とにかく楽しかった!」など参加者の皆さんからは概ね好意的なコメントをいただきました。ラジオリスナーとなっていただいた方からも、「動けなくなったらぜひこういうラジオを手元に置いておきたい。所長にぜひ欲しいと伝えて。」との嬉しいお言葉も。

一方で、声が聞き取りにくい方などには十分楽しめなかったりと課題も満載。でも、理論的にうまくいくはずのことも多様な変数が絡むことによってうまくいかなかったり、思わぬことが功を奏したり、想像もしなかったことから知見が得られたりと、準備や現場が大変な分、得られるものも大きいのがこうした実践の魅力。今回の実験を元に、どういうかたちで展開可能なのか、考えていきます。デジタル・ストーリーテリングのときも感じましたが、何かを普及させたいと思っても、納得のいく技術が一般化するまではまだあと数年という気もします。ただ、こうしたニーズがあることは確かであるようにも感じているので、その数年後を目指して準備をしていきたいと思います。

今回、成果物のイメージがない中で、破格のプライスでものづくりとシステム設計をしていただいたソフト・ディバイスの鈴木さん、三宮さん。送出卓回りをほぼ手弁当でデザインしてくださった静岡産業大学の植松さん。素晴らしく素敵な施設ル・レーヴと繋いでくださりMCを引き受けてくださったひと・げんばサポートセンターの藤田さん、ギターで参加してくださった吉田さん。水戸黄門の格好と歌で最初の緊張を打ち破ってくださった所長の永宮さん、さまざまな要望に丁寧に答えてくださった施設長の蟻塚さん、そしてオーディエンス調査に協力してくださった龍谷大学の松浦さと子先生。どうもありがとうございました。実践の結果は論文にしていく予定です。

追記:日刊県民福井で取り上げていただきました。日刊県民福井記事

2018年日本社会学会中部支部大会発表原稿