2023年9月末、2020年度、JSPS欧米短期で1年間研究室に在籍されたSarah Wagnerさんのお招きで、スコットランドのUniversity of the Highlands and Islandsで、コミュニティとアートをめぐるいくつかのラウンドテーブルに参加させていただきました。

Highlands and Islandsとは、スコットランドの北部地域と周辺の島々を指します。かの有名なネッシーを擁する?ネス湖も、中心都市インヴァネスの近くにあり、多くの観光客が訪れる場所でもあるようです。西部にはスコットランド・ゲール語を話す人びともいて、標識などには二語表記がされていました。ノルウェーにも近いためにバイキングの影響も受けた土地柄で、緯度が高いためにオーロラが見えることもあるそうです。

UHIは比較的新しく編成された大学で、域内に広く点在する12のカレッジと多様な研究機関で構成されています。IAMASの金山智子先生と訪れたCenter for Living Sustainabilityには、島々や過疎地に暮らす人びとや世界で周縁化されがちな人びとの声を聞きとり、サステナブルな社会の構築に向けて働きかける実践的な研究者が集まっていました。子どもの人権を守るために世界でアクションリサーチを行うV.Johnsonセンター長のもと、演劇の手法を活かして実践的な教育学や緩和ケアにアプローチするL.Mickel博士、多様なコミュニティとの連携で環境などサステナブルな社会の構築を探るL.Welamedage博士、そして起業家コンペなどを主催し、地域の活性化を目指す R.Thomas氏などの研究発表は、地域密着型の実践的研究で、かつ聞いていてワクワクする内容で、日本でも同様のことができないかと夢想してしまいました。またヴィジュアル、あるいはインスタレーション・アーティストとして活躍し、コミュニティのエンパワメントを目指すR.Newman氏や、Poetic Inquiryなど先進的な創造実践研究の方法論を駆使して、環境問題やサステナビリティを考え続ける詩人のM.Haggisth博士などコミュニティ・アートの領域も、まだあまり日本では取り入れられていないと思われる試みやディシプリンで、大変勉強になりました。

自分自身の発表は、もっと上手く説明できたのにと反省しきりですが、多様な研究者が学際的にチームを組んで行うUHI Center for Living Sustainabilityでの研究の数々には、新しい研究スタイルだということもあってか、とても活気と可能性を感じました。私たちが訪れた時には、大学のロビーで、地域のさまざまな団体やNPOがブースを展開して活動をアピールしており、社会との距離が近い印象を受けました。金山先生とも、とりあえず研究会のようなレベルから、センターの研究者たちの研究動向を参考にしながら、同様の研究ネットワークを広げていけないかという話をさせていただいています。

スコットランドの空気は、残暑の残る名古屋では想像のつかない冷たさで、何年振りかの風邪をひいてしまい、時間を最大限に使えなかったのがとても残念でしたが、コミュニティの土地を自分たちで管理して子どもや障害を持つ人たちが自由に遊んだり活動できたりするコミュニティ・トラストの試みや、Brexit後のイングランドやスコットランドの状況など、ネットでは十分に理解できない現状についてもご教示いただく機会が多く、今後の研究の方向性に新たな視点をいただきました。