News Tapa(ニュース打破)は李明博政権への批判を行ったことで、放送局を解雇、または左遷された公共放送の記者たちによって、2012年から活動を始めた韓国の調査報道専門独立メディアである。離職当初は労働組合の支援を受け、映像配信から始めたが、市民からの自発的支援が始まったため、2013年に韓国調査報道センター(Korean Center for Investigative Journalism) を設立し、News Tapaとして配信を開始した。現在は自社サイトとソーシャルメディアで映像や記事を配信している。

独立性を確保するため、YouTubeなどでも、広告には一切頼らないのが特徴で、基本的に収入は支援者である会員46000人からの会費による。会費は各自の懐具合で、月額平均1000円から1500円程度、多い場合は月額10万円程度の会費で運営されている。現在、収入は600万USドル(日本円で9億円程度)。会費以外には、著書やドキュメンタリー映画の収入やグッズ販売が全体収入の10%ほどを占める。会費制というシステムは比較的安定的に運営が可能で自社ビルも購入した。パク・クネ政権時など、政権に疑惑が生じれば生じるほど、また調査報道記事を出せば出すほど関心を集め、支援が集まるという。

映像編集ルーム

現在、独自ウェブサイトやソーシャルメディアを介して、週に2-3本の記事を文字や映像で配信している。記者30名(うちデータジャーナリストが6名)、運営等スタッフ20名の計50名が雇用されている。給料は主流メディアよりも少し下がるかもしれないが、その分、書きたい記事を自由に出せる点が記者にとってのメリットだと代表のキム ヨンジン氏は述べる。自社ビルには誰でも利用できるブックカフェも併設されており、オフィシャルグッズや著書が購入できる。

併設のブックカフェにて、代表のキム・ヨンジン氏

韓国の大手メディアも、公共放送は政府、民間放送はスポンサーの影響を恐れ、政権や財閥への批判をしづらい構造にあるが、会費など独立資金に基づく構造であることから、サムスン電子系列の工場で起きている疾病についても報じて関心を集めた。そのほかTapaは、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に韓国のメディアとして唯一参加し、2016年のパナマ文書では盧泰愚元大統領の長男が税回避をしていた疑惑を報じるなどの調査報道活動で人びとの関心を集め、それに伴って会費が集まってきたという。ちなみに韓国にも日本と同様の記者クラブがあるが、調査報道を専門にしているために、わざわざ加入する必要はないと考えている。

ニュースTapaに飾られる数々の賞

一方、News Tapaは、現在、苦境に立たされてもいる。検事時代のユン ソンニョル現大統領が、都市開発への融資ブローカーへの容疑を揉み消したと報じた2022年の記事が虚偽に当たるとして、2023年9月には検察がニュースTapaのオフィスや記者の自宅に強制捜査に踏み込んだ。大統領の批判的報道に対して、検察が名誉毀損を理由に踏み込むのは異例の事態であるが、逆に言えば、Tapaの影響力が無視できない状態ともいえる。Tapa側は人権派、特に表現やメディアの自由に詳しい弁護士や法律の専門家とは日頃から密に連絡をとっているという。

今後の展望としては、独立メディアのインキュベーションに力を入れ、韓国全土に100程度を設立することが目標という。既に2年ほど前から講座を設定し、既に世明大学との提携講座やインターンシップなどを通じて新たな独立メディアの誕生を支えてきた。これまでに、仁川での地域レベルの調査報道メディア、メディア監視を目的とした調査報道メディア、司法・裁判の監視を行う調査報道メディアが既に誕生している。

サポーターたちは、Tapa 本社で行われる映像の先行視聴や年次総会への参加が可能である。記者との対話や公開前の映像視聴などを行う月一度のミーティングには50名ほどが、また年次総会には500名ほどが集まる。サポーターの男女比率は6対4。韓国全体として見ると、サポーターたちは40代以上が多く、若者がまだ少なく、韓国社会全般において政治やジャーナリズムへの関心が低下していることが課題だという。

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46000人が月1000円を支払得ことでかなり安定したメディアが運営できるということに、会費制メディアの可能性について考えさせられた。おそらく世界で最も成功している会費制メディアの一つではないだろうか。権力からの捜査に動じない姿勢、そして何より、疑惑が生まれれば生まれるだけ独立メディアに資金が流れるという構造に、韓国と日本との調査報道に対する理解や期待についての差異を痛感させられるインタビューだった。 (2023.11.29)

追記:
科学研究費(基盤C)19K12698「次世代型ジャーナリズムのファンドレイズをめぐる調査研究」
また韓国のメディア人類学者、金暻和さんにご紹介いただきました。