鄧 博文

2024年2月19日、台湾のオルタナティヴメディア–公庫の創立者である中正大学の管中祥教授にインタビューを行った。

公民行動影像資料庫(略称:公庫)は、台湾の独立メディアである。もともとは台湾国家科学委員会「デジタルアーカイブ計画」の一環として、2007年8月から2012年10月まで台湾の社会運動を映像で記録し続けたが、資金が尽きたことから一旦計画を終了した。しかし、管氏と同僚たちは、公庫がこれまでに数百本の社会運動に関するビデオを撮り、多くの貴重な歴史資料を記録してきた価値を評価し、計画をただ終わらせることはできないとメディアへの転換を考え始めた。そして、公庫のこれまでの5年間の成果を「公民不冷血」という本にまとめ、各地で宣伝活動を行いながら資金を募った。そして名も知らぬ篤志家(後に彼が有名なビジネスパーソンであることが判明)が寄付した30万台湾ドル(日本円でおよそ140万円)で、公庫は独立メディアとして活動を続けることになった。

2014年、公庫は社団法人となり、現在はNGOとして活動を続けている。環境、人権、労働者、新移民問題、そして報道の重点領域である社会運動など、一般の人々が関心を持ちづらいテーマに注力して報道しているが、これは創立者である管氏の経験に由来する。若い頃、様々な学生運動に参加していた管氏は、そこで「綠色小組」(緑のグループ)という社会運動を記録した映像団体の作品に触れた。それまで、テレビでは、暴徒が警察を攻撃しているシーンしか見られなかったのに対し、この作品では、同じ現場で警察が抗議者を攻撃していたという。管氏は、主流メディアが台湾の社会運動を歪曲していると感じ、「もっと客観的なものを見せなければ」と、公庫の設立を模索し始めた。今公庫が行っていることも、「綠色小組」に敬意を表す意味があるという。

公庫の現在のスタッフは合計5名(記者2名、編集者1名、そして公庫が制作する番組「燦爛時光會客室」2名)。管氏はこの番組のプロデューサー兼キャスターである。現在、毎月100~200人が寄付。かつては月に10万~11万台湾ドルの収入があったが、新型コロナウイルスの影響で、現在は月に約5万台湾ドルに留まっている。公庫は寄付者の人物像について個別調査することはないため、その詳細はわからないが、富裕層ではないと考えている。台湾の独立メディアの多くと同様、収入はそれほど多くないが、現在の運営を支えるには十分であるという。

現在、公庫が制作した映像作品は5000本を超え、すべて社会資源として一般に公開されているが、これらのコンテンツを商業目的で使用したい場合は、一定の料金を支払わなければならない。

公庫がこだわっているのは、記者を現場に派遣し、抗議者側の声を聞くことである。こうした甲斐あって、公庫の記事は他のメディア報道より詳しい。一方で、公庫はFacebookなどで記事や意見を読者と共有している。また管氏は「燦爛時光會客室」というポッドキャストで、毎週の重要な社会問題を深く掘り下げている。最近のエピソードでは、台湾の立法委員会の選挙で落選した4人の人物にインタビューし、彼らの選挙体験を通じて台湾の選挙制度の欠点を分析し、社会的に大きな反響を呼んだ。

オルターナティブゆえに主流派に受け入れられづらかったり、政府からの圧力を受けることも少なくないという。2014年に起こった有名な学生運動である「ひまわり(太陽花)運動」を報道した際にも、公庫のウェブサイトはハッカーに攻撃されたという。また、ある抗議活動で、興奮した抗議者が消火器で警察に噴射し、警察がすぐに関係者を逮捕した際にも、抗議者のそばで撮影していた無実の公庫記者が巻き添えになったという。しかし一般的には、台北市の警察の多くは公庫のスタッフ、特に社会活動家として知られる管氏を知っていて、親しく交流する場合もあり、どちらも是々非々で活動している。

公庫の運営状況はそれほど好調ではなく、多メディア展開するための資金も十分とはいえない。また社会的影響力の面では、報導者のように多くの賞を受賞したり、高い知名度を持っていたりするわけではない。しかし、公庫は台湾で社会運動に関心を持つ人たちの間では高い評価を受けている。公庫の記者を見ると、抗議者たちが、「あなたたちがいてくれれば、私たちは抗議を続けられる」と喜んで迎えてくれるという。管氏は、これが公庫の存在価値だと考えている。

台湾ではネイティブ広告(記事のように見せかけた広告)の氾濫が問題となっているが、この現象の根本的な原因は、台湾の人口に比して、メディアが多すぎるために過剰競争になっているからではないかと管氏は分析している。しかしその一方で、メディアの数が多いということは、台湾における民主化の度合いが高いことの表れでもあり、好意的に評価している。(文責: 鄧 博文)