2024年6月29日、立命館大学OICキャンパスにて、テンプル大学のアンドレア・ウェンゼルさんを囲む研究会を、ハイパーローカルメディア研究会とエンゲージド・ジャーナリズム研究会の共催で行いました。
ウェンゼルさんは元公共放送のラジオプロデューサー、ジャーナリストで、フィラデルフィアのコミュニティ・ジャーナリズム・プロジェクト「Germantown Infohubの共同創始者でもあります。研究会では、ローカルメディアの試みから見えてきた「コミュニティを中心にしたジャーナリズム」の可能性と課題、そして若い人びとに関心を持ってもらう工夫についてご教示いただきました。
最近、日本でも、客観的に伝えるだけでなく、コミュニティの問題を掘り起こし、解決まで導く「課題解決型ジャーナリズム(Solutions Journalism/Constructive Journalism)」や、住民との関わりを育み、取材や報道へと招き入れる試みとしての「エンゲージド・ジャーナリズム(Engaged Journalism)」が紹介され、関心が高まっています。ウェンゼルさんはこの二つを結びつけた「コミュニティ中心のジャーナリズム」を提唱しておられます。南カリフォルニア大学のチームが理論化してきた「コミュニケーション基盤理論+ストーリーテリング・ネットワーク」のモデルを用いて、実際の地域メディアの状況を、住民のフォーカス・グループ・インタビューや日記調査、個別インタビューなどを用いて調査し、より良いメディアのあり方をメディアに提言するという介入型研究方法です。
いくつかの事例を報告していただきました。ケンタッキー州農村部の小さなコミュニティのネットメディア「Ohio County Monitor」は、兄弟2人でほぼ運営するメディア。地域の人たちが何気ないおしゃべりを楽しみながら情報を交換する「嘘つきのテーブル」という男性版井戸端会議に出かけて、地域の人が関心を持っている情報やニュースを探したり、かつて存在した紙の新聞で、地域の出来事や困りごとを共有していた参加型コラムを参考に、住民による投稿者を募ったりして、より地域住民の関心に沿った、解決型ジャーナリズムを目指しているそうです。
また、黒人の割合が高いフィラデルフィアの地域コミュニティでの調査では、住民は、マスメディアが、犯罪が起きたときにしか自分たちの地域に来ないことに不満を募らせていました。そこで研究チームが協力して、新たに「Germantown Info Hub」を立ち上げ、1)地域の課題、イベント、リソースについての情報を増やし、2)地域とメディアとの関係を強化することで、地域住民の声を反映することを目的に活動が始まりました。現在は、2名のスタッフで、調整役や記者として住民を巻き込みながら、財団の助成金をもとに運営されていると言います。関心が高いのは、意見交換会やイベント。リアルに話ができる場や、住民のフィードバックを重視しつつ、イベントなどで「楽しみ(Joy)」を大切に運営する手法は、どこでもうまく行くとは限らないものの、何らかの形で汎用性を持つのではないかと提起されました。なお、フィラデルフィアでは、こうした小さな地域のメディアを支え、そこで起きていることをまとめ、より大きなメディアとの橋渡しをするResolve Phillyという組織もあるそうです。
日本との社会的違いはあるものの、役立ちそうなティップスやリソースがたくさん紹介されました。また会場には、メディアの現場の方もおいでになり、今後、こうした活動を進めてみたいといううれしいご意見もありました。考えてみれば、これまで地域メディア研究も、量的調査やメディア関係者へのインタビューが多く、住民側が何を求めているのかを質的に聞き取る調査というのはあまりなかったように感じます。研究手法のについても大変勉強になりました。
※本研究会では、立命館大学科研費獲得推進プログラムからの助成を受けました。また、エンゲージド・ジャーナリズム研究会メンバーでNHK放送文化研究所の青木紀美子さんに大変わかりやすい通訳をしていただきました。心からお礼申し上げま