ハイパーローカル・メディア研究会では、2025年12月18日、オンラインで静岡県三島市で活動する「ミエルカイ」の共同代表 村上昌彦さんと、活動にアドバイスを続ける渡辺正大さんにお話を伺いました(参加者26名)。
活動を中心的に進める村上さんのお仕事は、臨床検査技師。市政については以前から関心があり、仲間と会合を開いていたそうですが、その様子を眺めていた渡辺さんから、「このままここでガス抜きをしているだけでは市政は変わらない。自分たちで事実を伝えていく活動をしてみませんか」とアドバイスを受け、2019年、子育て中のもうお一人の共同代表とともに、ミエルカイが設立されました。現在、活動は主に村上さんが行い、渡辺さんがデスク役となって記事のチェック等をされているそうです。
市の状況を監視していくにあたり、渡辺さんが推奨されたアプローチの一つが情報公開請求でしたが、当初、村上さんは、そんなことをするのは「卑怯」だと感じたそうです。雑誌などがネチネチと人の嫌がることを掘り起こすような、そんなイメージがあったからだといいます。しかし渡辺さんから説明を受けるうちに、その必要性が徐々に理解され、またご自身も担当者とやりとりしながらそのやり方やコツを学び、今では渡辺さんいわく「情報公開請求のプロ」として活躍しておられます。
ミエルカイの活動理念は、特定の政治や団体に傾倒することなく、三島市をいい街にしていくこと。人口10万人、県庁所在地の静岡市からは離れていて、マスメディアの支局が次々と閉鎖されていくなかで、あまりメディアに取り上げられないという不満もありました。こうしたなかで、ただ伝える、批判するだけでなく、改善に繋げていこうとするところがこの会の特徴です。
医療系の仕事を生業とする村上さんが初めて取り組んだのは、心停止した人の命を救うAEDの管理体制をめぐるチェックでした。AEDについては一応市が管理していることになっているものの、その使用期限は8年とされ、結構更新にも費用がかかるため、本当にちゃんと使える状態になっているのかどうか、村上さんは気になっていました。そこで担当課に聞き取りを複数回行ったり、ブログで問題提起したり、市議会に申し入れるなどして、確認を促しました。そしてその結果を情報公開請求で確認したところ、期限の8年を超えてそのままになっている施設、使用不能やバッテリーやパッドの期限切れなどが複数見つかりました。
また、期日前投票所を商業施設内に設けるという活動もされたそうです。投票率の低さについて、議員にアンケートで見解を問い、投票率を高める必要性を確認した(させた)のちに議会に陳情。住民からの署名も集めました。このときは自治会長からの積極的な協力もあったそうです。また、当該商業施設の本社に直談判するなど下準備も行なって、2年越しで開設にこぎつけました。
上記のような変化や、大きな問題が発覚したときなどには静岡県庁での記者発表なども行っています。より大きなメディアがその結果を伝えることによって、情報が住民に伝わっていくというような、マスメディアとの連携も目指しているそうです。
地方(だけではないが)のニュース砂漠が広がる中で、こうした住民主体のミエルカイの活動は、さまざまなヒントを与えてくれます。住民ならではの視点やアンテナがもたらす情報の重要性が改めて認識されるとともに、ネット時代には記事や内容をめぐるアドバイスを遠隔地に暮らす人びとに求めることもでき、志とネットワークがあれば、なんとか小さなメディアを立ち上げ、発信できる基盤は整いつつあります。こうした動きは、住民が主体となって町の情報を集め、伝え、町を変えていこうとする「エンゲージド・ジャーナリズム」、あるいは建設的、解決型ジャーナリズムと言われる、いわば次世代型ジャーナリズムとして世界各地で展開されている試みとも重なりがあるように思われます。その一方で、地域内の組織などに対して批判的な記事を公開することで、住民間に亀裂が入りかけたり、取材等の関係人数を増やすと情報が簡単に漏れてしまったりという問題や、情報公開請求や交通費をめぐる課題などもあるようです。こうした問題はミエルカイに限らず、すべての小規模メディアで経験されていることです。
ミエルカイの活動を首都圏にも広げられないか。村上さんと渡辺さんは次のステップを模索されています。
ハイパーローカル・メディア研究会では、引き続き、こうした活動をネットワークしながら、課題解決に向けた研究を進めていきます。